16歳がシャンパンタワー、父のカードで豪遊キャバクラ600万円

…裁判所が指摘したキャバクラの違法

 

シャンパンタワーに高級ブランデー…。平成22年の年の瀬、京都有数の繁華街として知られる木屋町のキャバクラをハシゴし、豪遊を繰り返していた当時16歳の京都府在住の少年がいた。一晩で255万円を使うなど約3週間の間に費やした額は、キャバクラ店だけで600万円以上。もちろん少年に支払い能力があるはずもなく、使ったのは父親の財布から無断で抜き取ったクレジットカードだった。果たして父親に支払い義務はあるのか。店やカード会社の責任は?民事訴訟の注目の判決が京都地裁で言い渡された。

255万円のクリスマス

 判決によると、22年12月25日、中学時代の同級生と2人で木屋町に繰り出した少年のクリスマスの夜の遊び方は、常軌を逸していた。

 父親のクレジットカードを手に家を出た少年は、まず京都市内の大手百貨店に立ち寄り、クリスマスプレゼントとして女性用アクセサリーを約8万円分購入。キャバクラ3店をはしごし、ホステスにアクセサリーをプレゼントした。

 3店目では、高級シャンパン「ドンペリ」を使ったシャンパンタワーを複数回行ったり、レミーマルタンの高級ブランデー「ルイ13世」などを注文。1本20万円の高級ブランデー「ラーセン」をホステス3人に1本ずつプレゼントするなど、この店だけで255万円もの代金をカードで支払った。

 店では、入店と同時に少年からカードを預かり、11回に渡って決済し、その都度、少年にサインさせていたという。少年は法廷で「金額がいくらか全くわかっていなかった。サインだけ求められた」と話した。

 不自然な利用にカード会社も一度、店に確認の電話を入れている。店の従業員は少年に父親の年齢を尋ね、「(カードを利用した客は)40代くらいに見える」と回答した。

 その後、少年が電話口に出て父親の名前、生年月日を答えた。生年月日は月日しかわからなかったが、「年は店員が電卓で計算した」という。また、カードの引き落とし口座も答えられなかったが、カード会社の担当者は飲食店での決済で換金目的の利用とは考えにくいことや、本人が堂々と電話に出たことから、使用に問題はないと判断したという

3枚のカード

 判決によると、少年は高校受験に失敗し、22年からとび職として働いていたが、年末にはほとんど仕事に行かなくなっていた。

 少年が、母の再婚相手で運送会社を経営していた父親の財布からカードを抜き出したのは、22年12月10日夜だ。

 早朝に出勤し、午後9時には就寝していたという父親の財布には、父親名義のプラチナカードとその予備カード、経営する会社名義のゴールドカードの3枚のカードが入っていた。

 翌11日、少年は、父親の予備カードを手に中学時代の友人と2人で木屋町に繰り出した。客引きに誘われるまま、キャバクラに入店し2店で計8万6千円を支払ったのが、豪遊の始まりだ。

 この「成功」に味をしめた2人はキャバクラ通いを続けるようになる。しかし、22日夜、予備カードでは支払いがうまくいかなくなり、少年は予備カードを父親の財布に戻すと、今度はプラチナカードを抜き出し、木屋町を練り歩いた。

 判決は、そんな少年の風貌について「童顔であり、人生経験の乏しさからくる思慮のなさが表情に表れていて未成年であることがわかりやすい男性だった」と認定した。

 少年自身、各店のホステスには、年齢を「18歳」と告げ、さばを読みながらも未成年であることは自ら明かしていたという。カードでの支払いは、3週間ほどの間にキャバクラ店だけで600万円を超えた。

ついに発覚

 父親が、カードの異変に気がついたのは、同年12月29日になってからだ。

少年が、使いすぎたプラチナカードを財布に戻し、今度は会社名義のゴールドカードを持ち出したため、カードがなくなっていることに気がつき、府警などに紛失届を出した。同22日に、父親宛に送付された利用明細書には、キャバクラ代1回分も含まれていたが、封筒を開封していなかったという。

 そして、少年から事情を明かされた母親が翌年1月、父親にカードの無断利用の事実を告げた。

 父親は、タクシー代や焼肉店での飲食、ホステスへのアクセサリー代を含む百貨店やコンビニでの買い物など、少年が使った約40万円分についてはカード会社に支払った。

 しかし、未成年者とわかっていながら、少年を「客」として扱い、利益を得たキャバクラ店については、店側に非があるとして弁護士を通じ11店に返金を要求、返金に応じなかった5店について、計550万円の支払いを求め、23年4月、提訴に踏切った。

2つの争点

 民事訴訟で主に争点となったのは、キャバクラ店での接客契約が法的に有効か、父親がカード代金の支払い義務を負うのか-の2点だった。

 5月23日、京都地裁で開かれた判決で、橋詰均裁判長はまず、少年が各店のホステスに年齢を「18歳」と告げていたことや少年が童顔だったことを理由に、「店側は不正使用に便乗して暴利を得ようとした」「各店とも未成年者に酒を提供することで健全さを害しており、少年との契約はいずれも無効」と判断した。

 その上で、うち2店で行われたカード決済について「店側が父親のカードによる不正使用だったと認識していたか、強く疑うべきだった」と指摘。「不正や少年の思慮不足に便乗して暴利を得ようとしており、公序良俗に反する」と認定し、約480万円分の免責が成立するとした。

また、カード会社が同額分の代金の支払いを求めて反訴していた請求についても「電話で本人確認をした際に不正を疑う機会があった」として退けた。

 原告側の代理人は「これまで、カード会社は店と利用者が契約したことで不正利用でも自分たちは知らない、という立場をとっていたし、判決もそうした内容のものが多かった」とした上で、「今回の判決はカード会社にも不正利用の責任があるということを示している」と評価した。

 その後、原告側、被告側双方とも控訴を見送り、判決は確定した。

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